EPA・FTA・原産地証明とは?関税が下がる仕組みと原産地規則をわかりやすく解説 DAY57
【DAY57】EPA・FTA・原産地証明とは
関税が下がる仕組みと原産地証明の役割を初心者向けに整理する
DAY51では原産国、つまり商品の「国籍」について学びました。原産国が分かると変わるものの一つが関税です。日本と相手国の間にEPA等があれば、通常より低い関税率が適用される場合があります。しかし「日本製の商品ならEPAを使えばいい」というほど単純ではありません。EPA税率を使うには、①日本と相手国の間に対象となるEPA等がある②そのHSコードの商品にEPA税率が設定されている③その協定の原産地規則を満たしている④必要な原産地証明・申告手続を行う、という確認が必要です。日本税関も、EPA締約国からの商品であってもすべてにEPA税率が適用されるわけではなく、協定上の「原産品」であることや定められた手続を満たす必要があると説明しています。
「"日本から送る=EPAで関税0円!"じゃないよ。協定・商品・原産地ルール・証明、この4つを順番に確認するんだ!」
DAY51・DAY56との違い
DAY51は「この商品の原産国はどこ?」、DAY57は「この商品は利用するEPA上の原産品と認められる?」です。同じ「原産」でも目的が違います。DAY56の非販売貨物からは離れ、通常の輸出入で有利な関税率を使う仕組みを学びます。次回DAY58では国際配送サービスの比較へ進みます。
この記事で分かること
- EPA・FTAとは何か、何が変わるのか
- MFN税率とEPA税率の違い、EPAが自動適用ではない理由
- 原産品とは何か、品目別原産地規則(PSR)の3つの基準
- 第三者証明・認定輸出者・自己申告の3つの証明制度
- 積送基準と事後確認、根拠資料を保存する重要性
- 輸出者と輸入者の連携が必要な理由
- 先に結論|EPAは「4条件」が揃って初めて使える
- 協定と税率|MFN税率とEPA税率を比べる
- 原産品とは何か|2つのルート
- 品目別原産地規則(PSR)の3つの基準
- 関税分類変更基準の解剖|CC・CTH・CTSH
- 証明に必要な資料|BOMと製造工程表
- 3つの原産地証明・申告制度
- 自己申告制度の氷山モデル
- 輸送の罠|積送基準
- 輸入後も終わらない|事後確認と更新トリガー
- ステークホルダーの連携
- EPA利用・実践マスターフロー
- 実際のケースで考えてみよう|日本製雑貨をEUへ輸出
- よくある失敗
- EPAを利用する前の8つの質問
- やってみよう|EPA・原産地診断&確認チェックリスト
- アウトプットワーク|EPA・原産地確認シート
- 理解度チェッククイズ
- よくある質問
- 今回のまとめ
- 獲得バッジ
先に結論|EPAは「4条件」が揃って初めて使える
①協定:日本と輸入国の間に対象となるEPA・FTA等がある?②税率:そのHSコードの商品にEPA税率が設定されている?③原産品:その協定の原産地規則を満たしている?④手続:原産地証明・申告など必要な手続を行っている?この4つです。日本製→EPA、ではありません。
協定と税率|MFN税率とEPA税率を比べる
FTA(Free Trade Agreement・自由貿易協定)は特定国・地域間で関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃する協定です。EPA(Economic Partnership Agreement・経済連携協定)は貿易自由化に加え、投資・人の移動・知的財産等も含む幅広い経済連携を目的とします。越境ECで直接関係しやすいのは関税の撤廃・削減と原産地規則です。まず、通常適用されるMFN税率(最恵国税率)とEPA税率を比較します。通常税率がすでに0%なら、EPAを使っても関税面のメリットはありません。日本税関も、相手国のMFN税率がすでに無税ならEPA税率を利用する必要はないと案内しています。またEPA締約国からの商品すべてに一般税率より低いEPA税率が設定されているわけではなく、商品によって即時撤廃・段階的削減・税率維持・対象外があります。段階的削減の場合、発効日に即時0%になるとは限らないため、最新の譲許表を確認します。
原産品とは何か|2つのルート
EPAで重要なのは「Originating Good(原産品)」です。単に「日本から来た商品」ではなく、利用するEPAの原産地規則を満たした商品を指します。Made in Japanという表示だけを根拠にEPA税率を適用することはできません。原産品には2つのルートがあります。ルートAは完全生産品で、一つの締約国で採取・収穫・飼育など生産が完結する商品です。ルートBは実質的変更で、非原産材料(海外材料)を使っていても、締約国内で十分な加工・生産を行い別の商品として実質的に変化したと判断できれば、原産品と認められます。このルールがある理由は、EPAのない国の商品を単に箱を替えて日本産として輸出することを防ぐためです。
品目別原産地規則(PSR)の3つの基準
PSR(Product Specific Rules・品目別原産地規則)は、HSコードごとに原産品と認められる条件を定めたものです。多くのEPAでは、①関税分類変更基準②付加価値基準③加工工程基準、またはその組合せを使用します。自社が好きな基準を選べるわけではなく、対象HSコードの品目別原産地規則を確認します。付加価値基準では、単に「日本で高く売ったから日本原産」とはならず、協定で定められた計算方法・材料価額・産品価額等から確認します。加工工程基準では、化学反応や混合・調合等、協定が定める特定の製造・加工工程が締約国内で行われたかを確認します。
関税分類変更基準の解剖|CC・CTH・CTSH
関税分類変更基準は、材料のHSコードと完成品のHSコードが指定されたレベルで変化しているかを見る基準です。CC(Change in Chapter)はHSの「類」=先頭2桁の変更、CTH(Change in Tariff Heading)はHSの「項」=先頭4桁の変更、CTSH(Change in Tariff Subheading)はHSの「号」=先頭6桁の変更を見る考え方です。輸入した材料を国内で加工し、別のHSコードの完成品に生まれ変わったことをHSコードの変化から確認します。商品名だけでは原産性を判断できず、必要なのはHS・材料・材料の原産性・製造工程・生産国・価額情報です。
証明に必要な資料|BOMと製造工程表
BOM(Bill of Materials・部品表)は、商品を構成する材料が、どの国のものか、原産か非原産かを整理する資料です。製造工程表では、材料調達→切断→加工→組立→包装のうち、どの工程を締約国内で行ったかを確認します。単に最終包装だけを日本で行っている場合、原産地規則を満たさない可能性があります。自社ですべての材料を作っているとは限らないため、仕入先(サプライヤー)から材料のHS・原産性・製造情報を確認できる体制を作ることが重要です。
3つの原産地証明・申告制度
原産品と確認できても、社内で判断しただけでは終わりません。輸入国税関へ、定められた方法で証明・申告する原産地手続が必要です。制度は大きく3種類あります。①第三者証明制度:輸出者等が指定された発給機関へ申請し、審査を経て原産地証明書が発給されます。②認定輸出者制度:事前に認定を受けた輸出者が、インボイス等の商業書類上に原産品である旨の申告文を作成します。③自己申告制度:輸出者・生産者、または協定によっては輸入者が、自ら原産品であることを申告します。2026年8月時点、日本からの輸出で自己申告制度を採用する協定の例として、日豪EPA、CPTPP、日EU・EPA、日英EPA、一定のRCEP仕向け、日米貿易協定があります。「全世界共通のCertificate of Originテンプレート」は存在せず、協定ごとに指定された方式を確認します。
自己申告制度の氷山モデル
自己申告は「審査がない」制度ではなく、「自ら証明できる根拠を保持する責任を負う」制度です。水面上に見える自己申告書(1枚の書類やインボイスへの記載)の下には、BOM・原材料一覧・非原産材料のHSコード・製造工程表・仕入書・価格表・サプライヤー資料といった膨大な根拠資料が必要です。第三者証明書を取得する手間が減る場合はありますが、自社で原産性を説明できる状態を維持することが重要です。
輸送の罠|積送基準
原産品と確認できても、輸送の途中で原産品としての資格を失わないことが必要です。これを確認するのが積送基準です。第三国を経由するというだけで自動的にEPA不可とはなりません。日本税関は、第三国を経由する場合でも積替え・一時蔵置など許容された作業だけであれば一定条件で原産資格を維持できる仕組みを説明しています。ただし第三国で単なる積替えではなく追加加工を行った場合、原産資格への影響を確認する必要があります。B/L・AWB・Tracking・経由地・積替情報などの運送資料を保存します。
輸入後も終わらない|事後確認と更新トリガー
EPA税率で無事に輸入許可になっても、そこで全部終了ではありません。輸入後に「本当にこの商品は原産品でしたか」と確認される事後確認があります。自己申告制度では特に、申告時にすべての製造資料を税関が事前確認しているとは限らないため、後から原産性の根拠を確認する仕組みがあります。原産性を説明できなければ、特恵税率の適用が否認される可能性があります。また、①HSコード変更②材料変更③仕入先変更④製造工程変更⑤協定・EPA税率変更、のいずれかがあれば原産品判定を再確認します。SKUが同じでも、材料の仕入先が海外に変われば判定は覆る可能性があるため、過去の申告書のコピー利用は厳禁です。
ステークホルダーの連携
EPA税率は輸入国側での輸入申告に関係します。輸入者が、利用するEPA・原産地証明方式等を申告してEPA税率を要求します。通関業者へ依頼する場合は、輸入者の依頼に基づいて通関業者が申告情報を入力します。日本の輸出者が完璧な原産地資料を作っても、輸入者が通常税率で輸入申告すればEPA税率が利用されない場合があるため、輸出者と輸入者の連携が必須です。
EPA利用・実践マスターフロー
販売国確認→日本とのEPA等確認→HSコード確認→通常関税率確認→EPA税率確認→削減効果確認→対象EPAを選択→PSR確認→材料確認→材料HS確認→製造工程確認→原産品判定→根拠資料準備→証明制度確認→原産地証明・申告作成→Invoice等との整合確認→積送基準確認→輸出→輸入者へ必要情報提供→輸入申告でEPA税率要求→資料保存→事後確認に備える、という流れになります。
実際のケースで考えてみよう|日本製雑貨をEUへ輸出
商品:日本ブランドの雑貨、販売先:EU企業、製造:日本、材料:一部海外製とします(税率・HSコードは説明のため確定させません)。まず日本とEUの間には日EU・EPAがあり、公式情報で現在の協定・適用範囲を確認します。商品HSコードを素材・機能・用途から確定し、通常税率(MFN)とEPA税率を比較して差額を見ます。通常税率がすでに0%なら関税削減目的のEPA利用の必要性は低くなります。製造地は日本ですが海外材料を使用しているため、対象HSのPSR(関税分類変更・付加価値・加工工程のいずれか)を確認し、材料一覧(BOM)と材料HSコードを整理し、日本国内でどこまで加工したかを確認したうえで原産品判定を行います。日EU・EPAでは自己申告制度が利用されているため、誰が原産地申告を作成するかを決め、BOM・製造工程・仕入資料・価格資料を根拠資料として保存します。輸送では第三国経由の有無と積送基準への影響を確認し、EU側輸入者へ必要な原産地情報を提供し、輸入者がEPA税率の適用を要求します。輸入許可後も根拠資料は保存し、材料の仕入先が変われば原産品判定を再確認します。EPA活用は証明書を1枚作る作業ではなく、商品設計・HS・材料・製造・物流・通関をつなぐ仕組みです。
よくある失敗
EPAを利用する前の8つの質問
- 販売国と日本の間に対象EPAがありますか?まず協定を確認します。
- 商品のHSコードは確定していますか?税率・PSRの入口です。
- MFN税率とEPA税率の差はありますか?削減額を確認します。
- 対象商品のPSRは何ですか?HSコードから確認します。
- 海外材料の原産性・HSは確認できますか?BOMを整理します。
- 原産品だと証明できますか?製造工程・価格資料を確認します。
- どの証明制度を使いますか?第三者証明・認定輸出者・自己申告等を確認します。
- 事後確認に備えて資料を保存できますか?申告だけで終わりにしません。
やってみよう|EPA・原産地診断&確認チェックリスト
5つのテーマから確認したい項目を選ぶと、確認ポイントの目安が分かります。入力内容はこのブラウザにのみ保存されます。
① EPA・原産地診断
② 確認チェックリスト
自己チェック用の簡易ツールです。実際のEPA税率・原産地規則は各協定の公式情報・税関で確認してください。
アウトプットワーク|EPA・原産地確認シート
① 商品・取引・協定
② 税率・PSR
③ 原材料・製造・判定
④ 証明・輸送・保存
記入できたら完了にする
理解度チェッククイズ
第1問 FTAとは何でしょうか?
第2問 日本と輸入国にEPAがあれば、すべての商品がEPA税率になるでしょうか?
第3問 EPA利用で最初に必要になる重要情報はどれでしょうか?
第4問 「Made in Japan」と表示されていればEPA上の日本原産品になるでしょうか?
第5問 PSRとは何でしょうか?
第6問 自己申告制度について正しいものはどれでしょうか?
第7問 第三国を経由した商品について正しいものはどれでしょうか?
第8問 EPA税率で輸入許可された後について正しいものはどれでしょうか?
第9問|実務判断問題 商品Aについて、昨年EPA原産品と判定し自己申告を利用しました。今年、仕入先が変わり主要材料が日本製から海外製へ変更されました。SKUは同じです。担当者は昨年の原産地申告をコピーして使用しました。何が問題でしょうか?
回答例を見る
主要材料が変わったのに、過去の原産品判定をそのままコピーしていることが問題です。原産品判定は材料・材料の原産性・HSコード・製造工程等に基づきます。仕入先変更→材料変更確認→材料HS確認→PSR再確認→原産品再判定→新しい根拠資料→新しい原産地申告、とします。SKUが同じというだけでは、原産性が同じとは限りません。
よくある質問
経済連携協定です。関税の撤廃・削減だけでなく、投資、人の移動、知的財産等も含む幅広い分野で経済関係を強化する協定です。
FTAは貿易自由化が中心、EPAはそれに加えて投資等まで含む幅広い経済連携と整理できます。
なりません。商品によってEPA税率が異なり、原産品要件や必要手続を満たす必要があります。
必ずしもそうではありません。品目別原産地規則を満たせば非原産材料を使っていても原産品と認められる場合があります。
証明手続だけでは足りません。対象税率、原産品要件、積送基準、輸入申告時の手続などをすべて確認します。
第三者証明の手間は減りますが、自社で原産性を説明する責任があり、根拠資料の保存が重要です。
必ずではありません。第三国での作業内容が積送基準を満たすか確認します。
あります。輸入後の事後確認で原産性を確認できなければ、特恵税率が否認される可能性があります。
今回のまとめ
DAY57では、EPA・FTA・原産地証明を整理しました。今回覚えておきたいポイントは次の5つです。
- EPAがあっても自動的に関税は下がらない
- HSコードから通常税率・EPA税率を確認する
- 商品が協定上の原産品である必要がある
- EPAごとに原産地証明・申告方法が異なる
- 輸入後の事後確認に備えて根拠資料を残す
最も重要なのは、EPA=関税0%と覚えないことです。日本と相手国にEPA等がある?→そのHSにEPA税率がある?→通常税率より有利?→PSRは?→原材料は?→製造工程は?→原産品?→証明方法は?→積送基準は?→輸入申告でEPA税率を要求→根拠資料を保存、という順番で確認します。DAY51の原産国とDAY57のEPA上の原産品を混同しないでください。原産地証明書は「日本製です」と宣言する紙ではなく、EPAで有利な税率を使うために協定上の原産品であることを定められた方法で証明・申告する仕組みです。
「EPAで大事なのは"日本製かどうか"だけじゃないよ。"この協定の、この商品のルールを満たしている?"まで確認して、初めて優遇税率につながるんだ!」

